薄暗い、空間。

それが寝室だと気付くのに、

其れは少しばかり時間が掛かったと思っていた。

彼女はベッドの上に座って、立てた膝に顔を埋めていた。

其れはただ無表情に彼女へ近づき、声無き声でどうしたのかと尋ねた。


彼女はぽつぽつと、何時もより細い言葉で言った。

それはきっと彼女にしか理解出来ないことであったが、

其れは、ただただ耳を傾かせ、黙って聞いていた。


其れは彼女が愛しかった。

その感情が親しい者へのものか、

淡い一時のものなのかはわからなかったが。



ただ、傍にいたかった。

ただ、温もりを感じたかった。

ただ、彼女と共に在りたかった。



ひとしきり語ると、彼女はふと柔らかい、其れが好きな笑顔を浮かべた。

頭を一撫でして、繊細なその指で喉元をころころと掻くように触れる。

其れは目を細め、されるがまま。

しかしその行為が嫌いな訳では無かった。

寧ろ、それは喜んで受けるべきであり、また其れの意思でもあった。


窓から蒼白い月明かりが入り込む。

彼女と其れをそっと包む光は、幻想的にも見え、しかし非道く哀しい。

月を彼女は見上げ、其れも釣られるように顔を上げた。





その日は、煌々と輝く満月の夜であった。










ひとりよる・満月